
「ネオン・デーモン」は、第69回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映された話題作。監督は、「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レフン監督。主演にエル・ファニングを迎え、華麗で危険なファッション業界の衝撃の悪夢を独特の映像美で描いたサスペンススリラー。
目次
ネオンデーモンのあらすじとネタバレ!
トップモデルを夢見て故郷の田舎町からロサンゼルスへとやって来た、16歳のジェシー。ネットのSNSで知り合ったカメラマンの男、ディーンにオーディション用の写真の撮影を依頼します。そして、撮影スタジオでメイク係のルビーに出会い、パーティーに誘われます。
ルビーがジェシーを連れて行った場所は、クラブでした。そこで、ルビーの友人、サラとジジを紹介されます。サラもジジも現役モデルでした。整形で退院したばかりのジジは、ジェシーに整形していないのかとたずねてきます。ショーが始まり、初めて目にする都会的なショーにジェシーは感嘆します。
ある日、ジェシーはディーンが撮影した写真を持って、芸能事務所を訪問します。毎日20~30人の女性を面接しているという女性面接官に「魅力がある」と言われ、ニューヨーク進出も夢ではないと告げられます。そして、芸能事務所とジェシーは正式な契約を交わします。
彼女は、誰もが目を奪われる特別な美しさに恵まれ、すぐに一流デザイナーやカメラマンの心をとらえ、チャンスをつかみます。ロベータのファッションショーでは、いきなりトリを任されます。そんな彼女をライバルたちが異常な嫉妬で引きずりおろそうとしてきます。
やがて、ジェシーの中に眠る激しい野心もまた、永遠の美のためなら悪夢に魂も売り渡すファッション業界の邪悪な毒に染まっていくのでした。そんなある日、泊っているパサデナのモーテルに戻ったジェシーはモーテルの管理人、ハンクに口の中へナイフを入れられる夢を見ます。
起きると、隣の13歳の家出少女が泊っている部屋から悲鳴が聞こえ、ジェシーは怯えてルビーに連絡をします。すると、ルビーは家に来るよう言ってくれます。ジェシーは、ルビーの家に身を寄せることにしました。彼女の家をたずねると、ルビーは草木に水をやっていました。
そこは、とても豪華な屋敷でした。ジェシーは、「ここに住んでいるの?」と聞くと「留守番してるの」とルビーが答えます。同じ女性同士ということもあり、警戒心が解けたジェシーは、実は処女だと打ち明けます。すると、ルビーが「あなたの最初になりたい」と言い、迫られます。
ジェシーは、怖さから思わずルビーを突き飛ばしてしまいます。ルビーは部屋を出て、副業のアルバイト先へ出掛けます。数時間後、ルビーが帰宅すると、ジェシーはまだ屋敷にいて、ワンピース姿で右目にラメ入りのメイクをして、水の入っていない庭のプールサイドに佇んでいました。
その直後、屋敷にジジとサラがやってきて、ジェシーに殴りかかってきます。危険を感じたジェシーは屋敷中を逃げまわります。最後は、包丁を持ったジジとサラがプールサイドの両脇をかため、逃げ場を失います。そこにルビーが表れ、水のないプールに突き落とされてしまいます。
そして、ジェシーは頭を強く打ち、プールの床一面に血が広がり、死んでしまいます。翌日の昼間、ルビーは上半身裸で、庭の草木に水をやっていました。その後、ジェシーの骨を埋めるため、芝生に穴を掘ります。サラとジジは、何事もなかったかのようにモデルの仕事に出かけます。
サラとジジがモデルで撮影をしていると、ジジに異変が起こります。そして、吐きそうだと洗面所へ向かい、撮影は一時中断。心配したサラも様子を見に洗面所に行くと、ジジがジェシーの目玉を吐き出し、「彼女を出さなきゃ」と言い、ハサミで自分の腹を刺し、命を絶ちます。
それを見ていたサラは、ジジが吐き出したジェシーの目玉を拾って、素早く口に含みました。何事もなかったかのように。
ネオンデーモンのキャストをご紹介
エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、アビー・リー、ベラ・ヒースコート、デズモンド・ハリントン、クリスティーナ・ヘンドリックス、キアヌ・リーブスほか。
■ジェシーを取り巻く3人の危うい男たち
ジェシーのボーイフレンドのディーン:カール・グルスマン
職人気質で癖のあるカメラマンのジャック:デズモンド・ハリントン
モーテルで働く男、ハンク:キアヌ・リーヴス
ネオンデーモンの監督について
ニコラス・ウィンディング・レフン / Nicolas Winding Refn
1970年9月29日、デンマーク生まれ。24歳で監督を務めた『プッシャー』(96)でデビュー。三部作として続編が製作され、カルト的作品を誇る。トム・ハーディ主演『ブロンソン』(08)で、各国のメディアから「次世代ヨーロッパにおける偉大な映像作家」と称賛を浴びる。
2011年、ライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』で、カンヌ国際映画祭の監督賞など数々の賞を受賞。その2年後、ライアン・ゴスリングと再びタッグを組んだ『オンリー・ゴッド』(13)で同じくカンヌのコンペティション部門でパルムドールを争い、国際的評価を揺るぎないものにした。
観る者の陶酔を誘い、想像力を刺激するレフン作品の世界観は、多くの観客を魅了。2014年カンヌ国際映画祭では 審査員を務めるなど、話題に尽きない。
ネオンデーモンの衣装について
映画「ネオンデーモン」の衣装デザインを担当したのは、ライアン・ゴズリング主演の「ドライヴ」(2012)でも担当したエリン・ベナッチです。レフン監督はエリン・ベナッチに、「偽物ではなく、既成概念の枠を超えた高級ファッションの舞台を作り上げたい」と伝えた。
これは、ベナッチに本物の衣装を見つけることと、「本当に高級ファッションの世界と感じられるような見た目にする」という二重の課題を与えることになった。実は、女性の美への“執着”に焦点を合わせた映画を撮ってみたいと長い間考えていたレフン監督の想いが現れています。
主人公のジェシーが、首から血を垂らしソファに横たわっている非常に印象的なオープニングシーンで着用していたメタリックブルーのドレスは、エンポリオ・アルマーニの2015年コレクションの衣装です。赤黒く流れる血とは対照的に鮮やかで艶のあるブルーがとても美しい。
ショーが終わった後、ジェシーが着用していた胸元が大きくカットされた挑発的でセクシーなホルタートップスは、サンローランの2015年コレクションもの。純粋にモデルを目指すジェシーが、ついに自分の圧倒的な美しさに気づき豹変する。そんな表情が印象的なシーンでした。
ラストシーンで、モデルのサラとジジが並んで着用したのは、奇抜なファッションで世界中の注目を集めるレディガガの御用達のブランド“Marina Hoermanseder”のもの。マリナ・ヘルマンセーダーは、オーストラリア航空の制服も手掛けたデザイナーだそうです。
その他にも、COACH、サルヴァトーレ・フェラガモ、ヴィヴィアンウエストウッドも使われています。劇中に登場する衣装はどれも煌びやかで、ヴィヴィットな色遣いが目に飛び込み、まさに“本物”のファッションに出会え、ファッション好きな方にはおすすめの映画です。
■エリン・ベナッチ / Erin Benach
ライアン・ゴズリング出演『ハーフ・ネルソン』(06年)で衣装デザインのキャリアをスタート。その後も、デレク・シアンフランス監督作『ブルーバレンタイン』(10年)、レフン監督作『ドライヴ』(11年)、シアンフランス監督作『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(12年)、『ロスト・リバー』(14年)など、ゴズリングが出演している劇中の衣装を手がけた。
ネオンデーモンの撮影場所について
「ネオンデーモン」の撮影場所は、ロサンゼルス。『高級ファッションの本場はニューヨークやパリだとしても、個々の娯楽産業はすべてロサンゼルスに行き着く。つまり、ロサンゼルスはあらゆるエンターテインメントと世界をつなぐ玄関口なんだ。』とレフン監督は言う。
『ロサンゼルスには2つの現実がある。いわゆる「本物」の現実。そして、もう一つは「人口の現実」だ。人口的な現実はロサンゼルスが生み出す幻想であり、神話めいているから僕にとっては本当に刺激的なんだ。』また、美の価値についてもこのように話している。
美の価値は、上昇し続け、決して下落することはない。
我々は美の寿命を縮めつつ、美への執着をますます強めているんだ。
ネオンデーモンの感想と解説
ネオンデーモンの感想と解説ついて、2017年1月に映画館で上映されたが、私がこの映画を観たのは、2年以上過ぎた2019年4月だ。内容より単純にエル・ファニングが出演していることと「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画だったので、選んだ。
感想は、映像は刺激的で美しかったが、正直こんなグロい内容で、一度観ただけでは理解できず、鑑賞後に特典映像を見てその日のうちにもう一度見直し、ようやく理解した。モデルが場面によって印象が変わり、見分けがつかなかったことと主人公が死ぬなんてストーリーに驚いた。
オープニングのジェシー(エル・ファニング)が首から血を垂らし、ソファに横たわっているあのシーンは、何も知らずに見始めた私は、衝撃を受けると同時に、殺人事件の死体なのか?どこのシーンに繋がるのだろうか?犯人はまだ近くにいるのか?とか一瞬のうちに色々と考えた。
その後、カメラはジェシーからどんどん遠ざかり、フラッシュが光る。写真を撮っているディーン(カール・グルスマン)が登場する。そこでもまだ何のシーンか理解できず、ただ、美しい映像に魅了され、映画「ネオンデーモン」に期待が高まり、一瞬でストーリーに入り込んだ。
華麗で危険なファション業界の裏側を見ているような、モデルの“美”に対する執着心を言葉は少なめに映像と音楽で表現されていて、レフン監督の映像美のこだわりを感じた。好きか嫌いか賛否両論あるだろうが、私は好きな方だ。音楽もシーアが使われていて良かったと思う。
アメリカの映画評論サイトのロッテントマトでは、支持率は57%であった。フランスの映画批評誌として名高いカイエ・デュ・シネマでは、2016年の映画部門で、3位に選ばれた。内容よりもファッションやアート的な映像美は、フランスの方が受け入れられるのかもしれない。
ジェシーは、整形などしていない若くナチュラルで美しいとされ、それに対し、21歳を過ぎると干され、整形で外見が美しくしても中身が醜いとされてしまう世界。そして、美しいもの(人)を食べることで自分の中に取り込むという美への執着。まさか人食い映画だったとは驚いた。
後半、展開が分かりにくいが、整形しているジジ(ベラ・ヒースコート)は、ジェシーを食べたが拒絶反応で、目玉を吐き出す。それをサラ(アビー・リー)が拾って食べてしまうが、拒絶反応はなく何事もなく仕事場に戻るというラスト。結果、ネオンの悪魔はサラだったのだろうか。
若くて、誰よりも光るものを持った美しさがあっても、ライバルに蹴落とされてしまっては、人生は終わってしまう。ピュアな心を持っていたジェシーだったが、モデル業界に渦巻く漆黒の野心にいつの間にか染まり、美にとり憑かれてしまう。最後は無残に食べられてしまう。
驚きの結末に最初は解釈に苦しんだが、これがレフン監督の映画の世界なのだと理解した。なぜ、同じ日に2度も観てしまったか考えると、監督の意図を知りたかった。そして、もう一度「ネオンデーモン」という美しい映像が観たかったのだ。私も気づかぬうちに美にとり憑かれていた。